バイオ医薬品トピックス

2016年04月13日

核酸医薬のあらたな展開

理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター機能性ゲノム解析部門
薬師寺 秀樹

理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター機能性ゲノム解析部門。技師。
計測機器や研究用試薬の営業、輸入、技術職、経営などを経て現職。

siRNA、miRNA、ASOなどの核酸医薬

これまで期待はされつつ、有効な結果を示せず市場から冷めた目で見られていたこれらの技術だが、Alnylam社がTTR変異による心アミロイド症治療薬の第3相試験を開始したことなど、大きく進展を見せ、改めて注目を集めている。
これらの進展には、デリバリーの技術がようやく実用的なレベルで使えるようになったことが大きな要因と思われるが、それは別の機会に譲ることとして、ここでは新たに登場している核酸医薬に応用可能な技術を紹介したい。

siRNA、miRNA、ASOは、多少のプロセスの違いはあるものの、基本的には転写されたmRNAから最終生産物であるタンパク質への翻訳へのプロセスをどこかのステップで阻害する。つまり疾患等の原因となっている遺伝子をノックダウンすることにより治療を目指すアプローチを取っている。
一方で、近年登場している技術は、なんらかの方法でタンパク質への翻訳を促進するアプローチを取る。

”messenger RNA Therapy”

例えば、ModeRNA社が進める"messenger RNA Therapyは、シンプルに人工的に合成されたmRNAを導入し、目的のタンパク質を産生させる。
人工合成されたRNAには、cap構造とpolyAを持つと同時に安定化のために化学就職が施されており、これにより安定的に細胞内に導入、発現が可能になっている。

人工合成mRNA。修飾核酸を含んでいるため、ヌクレアーザ耐性がある。
内在性mRNAは不要。キャップ構造とpolyAを持つ。

”AntagoNAT”

OPKO-CURNA社では、AntagoNATというシステムを開発している。これは、言って見れば、アンチセンスのアンチセンス、と理解できる。
ゲノム上からはセンスだけではなく、アンチセンス(natural antisense transcripts (NATs))が転写されている。これらNATは遺伝子特異的に対になる遺伝子の発現を抑制する。AntagoNATは化学修飾された一本鎖の核酸で、このNATに結合しその機能を抑制する。対象となる遺伝子は、阻害要因がなくなり、結果としてタンパク質への翻訳が促進される。

AntagoNAT。内在性アンチセンス(NAT)による阻害を、
そのアンチセンス(AntagoNAT)で阻害する。

”SINEUP”

TransSINE社もアンチセンスに着目しているが、アプローチが異なる。彼らは2012年にNatureに発表されたinverted SINEエレメントによる翻訳促進効果をツール化することに成功している。
SINEUPと名付けられたこのツールは、SINEエレメントを含む翻訳促進機能を持つドメインと対象遺伝子特異的に結合するドメインの二つのドメインからなる。細胞内に存在するmRNAに結合し、そのタンパク質翻訳を直接的に促進することができる。

SINEUP。タンパク翻訳を促進する機能を持つドメインとターゲットmRNAに
特異的に結合する領域からなる。

3つの技術の比較

いずれも最終的には「目的のタンパク質」を増産させるという目的であるが、それぞれ強み、弱みがある。

messengerRNA Therapyは、mRNAを導入することで目的を達成しようとする、いわば直球勝負のアプローチであるため、アプリケーションは幅広く想定しうる。完全に遺伝的に欠失した遺伝子を人工的に復活させることができる。
一方で、AntagoNATとSINEUPは、内在的に目的のmRNAが存在していなければ効果が得られないため、なんらかの原因でmRNAの発現(量)が抑制されている場合に適応が限られる。

messengerRNA Therayの場合、得られるタンパク質の量は導入された人工mRNAの量に依存すると考えらえる。大過剰に発現させた場合、細胞内の発現ネットワークに負荷がかかり思わぬ副作用を招く恐れがある。これは、我々の多くが過剰発現の実験において細胞でも観察している事象でもある。

また導入した人工mRNAが「本来発現していてはならない」細胞において機能した場合、さらに重篤な副作用も想定しなければならず、非常に高精度のデリバリー技術が必要になるのではないか、と考える。一方で、AntagoNAT、SINEUPは、すでに述べたように対象のmRNAが機能を発揮するための必要条件である。

すなわち、そもそも内在的にmRNAが発現していなければ、原理的には何もしない。これは、デリバリーの高精度化を要求せず応用可能性を広げることになる。

今後の期待

これらの技術は比較的新しいため、さまざま課題が出てくるであろうことは、想像に難くない。
しかしながら、それらの課題の多くは、siRNAの歴史で解決しているものも多くあると考えることができる。

siRNAの周辺で開発された技術、たとえばデリバリーなど、は場合によってはそのまま適用することも可能であるため、siRNAが要した時間よりも短い時間で実用化まで到達するのではないか、と期待している。